秘密証書遺言が実務では使われにくい理由
秘密証書遺言は、遺言内容を誰にも見せずに作成・保管できるという点で、非常に強い秘密保持性を持つ方式です。しかし、実際の遺言実務においてはほとんど利用されていないのが現状です。ここでは、秘密証書遺言が敬遠される理由について解説します。
1. 法的な形式要件が厳格で、無効リスクが高い
秘密証書遺言は、遺言書の内容に公証人が関与しないため、方式に不備があっても誰も気づかないまま保管されるという特徴があります。その結果、死後に開封された際に無効と判断されるケースが起こりやすいのです。
たとえば、以下のような不備があると無効になる可能性があります:
- 遺言書に自筆の署名と押印がない
- 遺言者以外の筆跡で書かれていた
- 封筒が開封されていた、または封印が不完全
これらの不備は、公正証書遺言であれば公証人が防いでくれますが、秘密証書遺言では遺言者本人に形式的な責任があるため、実務上は非常にリスクが高いとされています。
2. 家庭裁判所での「検認」が必要
秘密証書遺言は公証人が作成するわけではないため、相続開始後には家庭裁判所で検認手続きを行う必要があります。
検認には申立書や戸籍謄本の収集、相続人全員への通知、期日調整などが必要で、手続きに1〜2か月以上かかるのが一般的です。
公正証書遺言ではこの検認が不要なため、実務上は遺言の速やかな執行に不向きな点も、敬遠される一因となっています。
3. 証人が2名必要で、内容を知られたくないのに人手が要る
秘密証書遺言は内容を秘密にできる反面、証人2名の立会いが法律上必要です。
そのため、遺言書の中身は伏せられるとはいえ、作成の事実や存在を2名に知られるという点で、完全な秘密保持が難しいと感じる人もいます。
4. 保管場所・紛失リスクが自分次第
秘密証書遺言は本人が封印して保管する形式のため、自宅などで紛失・未発見・破棄される可能性があります。
せっかく作成しても、死後に誰にも発見されず、執行されないリスクが残るのです。
これに対し、公正証書遺言は原本が公証役場で厳重に保管され、法務局の自筆証書遺言保管制度でも同様の安心があります。
5. 公証人が関与しても、内容のチェックはされない
秘密証書遺言では、公証人は遺言書の存在を確認するだけであり、内容や法的有効性については一切関与しません。
このため、内容に法的な不備があってもそのまま進んでしまう点で、実務では「中途半端で危険な方式」とみなされがちです。
まとめ
秘密証書遺言は、内容を誰にも知られずに作成できるという大きなメリットがある一方で、無効リスク・検認の負担・保管リスクといったデメリットが多く、実務ではあまり推奨されていない方式です。
確実性を重視するなら公正証書遺言、費用を抑えたいが安全に保管したいなら法務局の保管制度など、他の方式を検討することが現実的な選択肢といえるでしょう。