高齢者・病人が作成する場合の注意点
高齢の方や病気療養中の方が遺言を作成するケースは非常に多くあります。公正証書遺言は、安全で確実な方式として適していますが、作成の有効性をめぐって後にトラブルになることもあるため、特に慎重な対応が求められます。ここでは、高齢者・病人が公正証書遺言を作成する際の実務上の注意点を解説します。
1. 遺言能力(判断能力)の確認が重要
遺言は本人が内容を理解し、自ら判断できる能力(遺言能力)を持っていることが前提です。高齢者や病気療養中の方の場合、認知症や意識障害などで遺言能力を欠いていると判断されると、遺言は無効になる可能性があります。
公正証書遺言では、公証人が面前で遺言者の意思能力を確認しますが、後日の争いを防ぐために医師の診断書を用意しておくことが望ましいです。
診断書のポイント
- 作成日と遺言作成日が近いこと(理想は同日)
- 「意思疎通が可能であり、遺言の内容を理解できる状態にある」旨の文言
- 主治医による所見であれば、より信頼性が高まります
2. 出張による作成も可能
病院や施設、自宅などから外出が難しい場合には、公証人に出張を依頼して、現地で公正証書遺言を作成することが可能です。
この際、出張費(日当・交通費)が加算されますが、体調に配慮しつつ、安全に遺言を残すことができます。
出張作成の際のポイント
- 事前に訪問可能な日程と場所を公証役場と調整
- 公証人が遺言者の顔を見て会話できる環境を確保
- 病室や施設の関係者にも事前の説明が必要な場合があります
3. 身体が不自由でも作成は可能
手が動かない、声が出ないなどの事情がある場合でも、遺言内容を理解し、意思を示せる状態であれば作成可能です。
筆談、うなずきなどの方法で意志を伝えられるかどうか、公証人が慎重に確認を行います。
ただし、完全に意思疎通ができない状態では、公正証書遺言の作成は難しくなります。状態が安定しているうちに早めの準備をすることが非常に重要です。
4. 家族や同席者の関与に注意
遺言作成時に同席する家族が、不当に影響を与えた(=意思表示を支配した)と疑われる場合、遺言が無効や遺留分侵害を主張される原因となることがあります。
そのため、できるだけ中立的な第三者(専門家など)を同席させることが望ましく、公証人もその場の状況を丁寧に観察・記録します。
まとめ
高齢者や病人が遺言を作成する際には、遺言能力の確保と証明、環境の整備、関与者への配慮が極めて重要です。
公正証書遺言はこうした不安に最も強い方式ですが、早めの準備と専門家のサポートが成功のカギとなります。
「体調が落ち着いている今のうちに」――これが最良のタイミングです。