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執行中のトラブルとその回避法
遺言書が有効であっても、遺言の執行段階でトラブルが発生するケースは少なくありません。
特に相続人間の感情のもつれや、財産内容の複雑さ、意思疎通の不足などが原因となり、相続手続きが停滞・紛争化するリスクがあります。
ここでは、遺言執行中に起こりやすいトラブルと、その予防・対応策を解説します。
1. 相続人間の意見対立・感情的な対立
よくある事例:
- 「内容に納得できない」と主張して協力を拒否する相続人がいる
- 財産配分に不満がある相続人が、執行そのものに反対する
- 遺留分侵害額請求を示唆して圧力をかける
回避法:
- 遺言書に附言事項を丁寧に記載し、配分理由や感謝を明記しておく
- 遺言執行者に中立的な専門家を選ぶことで感情的な対立を抑える
- 事前に相続関係者と最低限の意思疎通をしておく(内容は伝えなくてもよい)
2. 財産の特定・把握に不備がある
よくある事例:
- 遺言書に記載された財産が既に売却・解約されている
- 不動産の地番が間違っている、金融機関名が古い
- 遺言に記載されていない財産が後から見つかる
回避法:
- 遺言書作成時に最新の登記事項証明書・通帳等を基に記載する
- 財産目録を添付し、財産内容の全体像を明示する
- 定期的な見直しと、財産変動時の遺言更新を検討する
3. 相続人の所在不明・連絡がつかない
よくある事例:
- 相続人の一人が住所変更しており、書類が届かない
- 長年音信不通で、手続きに協力してくれない
回避法:
- 遺言執行者には職務として戸籍調査・住民票取得権限がある(民法1012条)
- 遺言で遺言執行者を必ず指定し、速やかに調査・通知ができる体制を整える
4. 執行者による手続きの停滞・対応ミス
よくある事例:
- 執行者が素人で、手続きに時間がかかる・ミスが多い
- 執行者が一方的に進め、他の相続人から不信を招く
回避法:
- 法律・相続に明るい専門家を執行者に指定する(行政書士・司法書士・弁護士など)
- 専門家に任せることで、スムーズかつ中立的な執行が期待できる
5. 遺言内容と実態が合致していない
よくある事例:
- 遺言では土地をAに相続させるとあるが、その土地には共同名義が含まれていた
- 「預金300万円を贈与」とあるが、残高が10万円しかなかった
回避法:
- 記載する財産は名義・残高・現況を確認のうえで正確に
- 状況が変わる可能性がある財産は、「残額を限度に」など柔軟な表現を使う
まとめ
遺言執行中のトラブルは、多くが事前の備えや配慮によって予防可能です。
遺言書を作成する際には、内容の正確さ・表現の工夫・執行者の適切な選任を意識することが大切です。
また、遺言執行者に選ばれた場合も、中立かつ丁寧な説明・対応を心がけることで、トラブルの芽を摘むことができます。