危急時遺言の手続きと証人構成
危急時遺言とは、病気や事故などにより死が迫っている状況で、通常の遺言方式をとることができない場合に、特例として認められる遺言の方式です。
本人の最終的な意思を尊重する救済制度ですが、法的に有効とするためには厳格な手続きと期限が定められており、慎重な対応が求められます。
1. 危急時遺言が認められる状況
以下のような緊急性が高く、遺言者の死亡が切迫している場合に適用されます:
- 末期がん等で医師から余命がわずかと診断された場合
- 事故や急病(心筋梗塞・脳出血など)により死亡が差し迫っている状況
- 災害・事件などに巻き込まれ、生命の危険があるとき
これらはあくまで例であり、その場で遺言者が自筆や公証人による作成を行うことが事実上不可能であることが前提となります。
2. 手続きの流れ
- 遺言者が口頭で遺言内容を述べる
遺言者は、自分の意思を3人以上の証人の面前で口述します。 - 証人の1人が筆記
証人のうち1名が、遺言者の口述内容をそのまま文章に記録します。これが遺言書の原型となります。 - 遺言者・証人全員が署名・押印
遺言者が署名できる状態であれば自ら署名し、証人3名も署名・押印します。
遺言者が署名できない場合は、証人がその旨を記載します。 - 作成後20日以内に家庭裁判所に確認の申立て
危急時遺言は家庭裁判所による確認を受けなければ効力が生じません。作成から20日以内に、遺言者の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てる必要があります。
※この「確認」を怠ると、遺言は無効になります。
3. 証人の要件と構成
危急時遺言では、3名以上の証人が必要で、民法974条に基づく証人資格制限も適用されます。
証人になれない人の例:
- 未成年者
- 推定相続人や受遺者、その配偶者・直系血族
- 遺言者の財産に利害関係を持つ者
証人は、その場で中立な立場にあり、遺言者の意思を正確に受け止められる者であることが求められます。医師・看護師・行政職員・地域の知人などが臨時で担うこともあります。
4. 危急状態から回復した場合の注意点
遺言者が危急状態から回復した場合、作成された危急時遺言はその日(回復した日)から6か月以内で失効します(民法983条)。
そのため、状態が安定したら、公正証書遺言など正式な方式で再作成することが必要です。
まとめ
危急時遺言は、死が間近に迫った場面での最終手段であり、手続きと期限が非常に厳格です。
証人3人の確保や家庭裁判所への迅速な対応が求められるため、現場で対応できる体制が整っていることが重要です。
できるだけ早期に公正証書遺言など通常の方式で遺言を残しておくことが、最善の備えといえるでしょう。