遺言執行者がいない場合の対応
遺言書に遺言執行者が指定されていない、あるいは指定された人物が辞退・死亡したといったケースは、実務上少なくありません。
しかし、遺言執行者がいないからといって、遺言の内容が無効になるわけではなく、一定の手続きにより対応することが可能です。
1. 遺言執行者が不要な場合
遺言の内容が比較的単純なもので、相続人間の合意で執行できる場合には、遺言執行者が必ずしも必要とは限りません。
例えば、以下のようなケースです:
- 特定の財産を特定の相続人に「相続させる」とだけ記されている
- 遺言の内容に争いがなく、相続人全員が協力的である
このような場合は、相続人自身で名義変更などの手続きが可能です。
ただし、不動産や金融機関によっては、遺言執行者の有無や検認済証明書の提示を求められることもあるため、事前確認が必要です。
2. 執行者が必要な遺言内容とは?
以下のような内容が遺言に含まれている場合は、原則として遺言執行者が必要です。
- 遺贈(特定・包括問わず)
- 推定相続人の排除・排除の取消し
- 子の認知
- 遺言による信託の設定
これらは、相続人以外の第三者や行政機関を相手とした法的効果の大きい手続きとなるため、遺言執行者による正式な対応が必要となります。
3. 遺言執行者がいない場合の対処方法
(1)家庭裁判所への選任申立て
遺言書に執行者の指定がない、または辞退・死亡により不在となった場合には、相続人や利害関係人が遺言者の最後の所在地の家庭裁判所に「遺言執行者選任の申立て」を行うことができます(民法1010条)。
申立てに必要な主な書類:
- 遺言書の写し(検認済証明書付)
- 遺言者の戸籍関係書類
- 遺言執行者候補者の戸籍・住民票等
- 申立書、収入印紙(800円)・郵便切手
申立て後、家庭裁判所が適任者を遺言執行者として選任します。選ばれた人物は、その後正式に遺言の執行を行う権限を持ちます。
(2)相続人による執行
遺言内容に執行者でなければできない事項が含まれていない場合に限り、相続人が協力して遺言の内容を実行することが可能です。
たとえば、不動産を相続人の一人に「相続させる」とだけ記載されている場合は、登記名義の移転を相続人自身で行うことができます。
4. 執行者を選任すべきか迷ったときは
以下のようなケースでは、遺言執行者の選任を前提とした対応が望ましいといえます。
- 相続人間に不仲や争いの兆候がある
- 遺贈や認知が含まれている
- 不動産・事業資産などの複雑な財産がある
- 相続税申告や納税が必要と見込まれる
このような場合、家庭裁判所での選任申立てや、専門家(弁護士・行政書士・司法書士)への依頼を検討するとよいでしょう。
まとめ
遺言執行者がいない場合でも、遺言の内容によっては、相続人自身での手続きが可能です。
ただし、認知や遺贈など法的効果が強い内容を含む場合は、遺言執行者の選任が不可欠となります。
状況に応じて、家庭裁判所の申立てや専門家の関与を通じて、円滑な相続手続きを行うようにしましょう。