危急時遺言と隔絶地遺言について
遺言には、通常の状況で作成する「普通方式遺言」のほかに、特別な事情がある場合に限って認められる「特別方式遺言」があります。これは、緊急性や特殊な環境にあるため、通常の方式で遺言を作成できない状況に対応するための制度です。
特別方式遺言には、大きく分けて以下の2種類があります。
- 危急時遺言(死亡の危険が切迫している場合)
- 隔絶地遺言(交通や通信が困難な隔絶地にいる場合)
1. 危急時遺言とは
危急時遺言は、病気や事故などで死期が迫っているときに、通常の遺言方式をとる時間的余裕がない場合に認められる特別な遺言です。具体的には、以下のような局面で用いられます。
- 末期の病状で急速に容体が悪化し、死が差し迫っているとき
- 事故や災害などで重篤な負傷を負い、医師から余命が短いと判断されたとき
- 突発的な急病(心筋梗塞、脳卒中など)で意識を失う前に意思を残したいとき
- 船舶遭難者
この場合、3人以上の証人の立会いのもとに遺言者が口述し、証人が内容を筆記する方法が採られます。作成された遺言は、20日以内に家庭裁判所の確認を受ける必要があり、これを怠ると無効になります。船舶遭難者遺言の証人は2人以上です。
また、遺言者が危急状態を脱した(回復した)場合には、6か月以内に普通方式による遺言をしなければ、危急時遺言は効力を失います。
2. 隔絶地遺言とは
隔絶地遺言は、伝染病による隔離、航海中で通常の遺言作成手段を利用できない場所にいる場合に用いられる遺言です。以下のような局面が典型例です。
- 新型感染症などにより病院や施設で隔離され、外部と接触できない状況
- 商船や漁船で長期間の航海中にある場合
隔絶地遺言には、伝染病隔離者遺言(警官1人と証人1人以上の立会いで作成)と、船舶における特別な方式(船長または事務員と証人2人以上が関与)があります。これらも、一定期間内に家庭裁判所の確認を受けなければ効力を失います。
まとめ
特別方式遺言は、緊急または特殊な環境下で遺言を残す必要がある人のための救済的制度です。ただし、証人の確保や家庭裁判所への確認など、厳格な手続きと期限が課されています。やむを得ない状況であることが前提のため、通常は早期に普通方式による遺言を作成しておくことが最善の備えといえます。