認知症や精神障害と遺言能力の関係
遺言書が有効となるためには、遺言者が遺言能力(遺言の内容を理解し、自ら判断する能力)を備えていることが必要です。認知症や精神障害がある場合でも、ただちに遺言が無効になるわけではありません。重要なのは、遺言を作成した「その時点」で遺言能力があったかどうかです。
認知症と遺言能力
高齢化社会において、認知症を患う方が遺言を作成するケースは少なくありません。認知症と診断されていても、症状の程度によっては遺言能力が認められる場合があります。
たとえば、日常生活に支障がない軽度の認知症であれば、自分の財産や相続関係を理解し、誰に何を遺すかを判断できると評価されることがあります。また、中等度以上の認知症であっても、一時的に判断力が回復する「明晰な時間帯」に作成された遺言であれば、有効とされる可能性があります。
精神障害と遺言能力
統合失調症、うつ病、知的障害などの精神障害がある場合でも、その症状の内容と程度により、遺言能力が認められることがあります。特に、長期間安定しており、日常的に意思疎通が可能な状態であれば、有効な遺言を作成できる可能性は十分にあります。
ただし、妄想・幻覚の影響で財産の処分内容に不合理な偏りがあるような場合には、遺言能力が否定されるおそれがあります。
遺言能力を証明するために有効な方法
認知症や精神障害がある方が遺言を作成する際には、後日の争いを防ぐため、遺言能力があったことを証明する手段を講じておくことが重要です。具体的には以下のような方法が有効です。
- 遺言作成前後に、医師による診断書(判断能力に関する意見)を取得する
- 公証人の面前で公正証書遺言として作成する(公証人が能力を確認)
- 第三者(弁護士・行政書士・信頼できる親族など)に立ち会ってもらう
成年後見制度との関係
既に成年後見制度が開始されている場合には注意が必要です。後見人が付いている状態では、原則として遺言能力が否定される可能性が高く、特別な手続き(家庭裁判所による長谷川式認知スケールに基づく能力確認など)がない限り有効な遺言を作成するのは困難です。
一方で、保佐や補助といった軽度の支援制度であれば、判断能力の程度に応じて遺言が認められる余地があります。
まとめ
認知症や精神障害がある場合でも、その人の判断能力がしっかりしていれば、有効な遺言を作成することは可能です。重要なのは遺言作成時点の能力であり、症状名だけで一律に判断されるわけではありません。後の無効主張を防ぐためにも、作成時には客観的な証拠の確保と適切な方法の選択が大切です。
いずれにしても、認知症になる可能性を考慮し早めに遺言書を作成しておくことをおすすめします。