障害のある子に全てを相続させたい | 相続対策としての遺言 | 遺言の手引き

障害のある子にすべてを相続させたい

家族に障害のある子がいる場合、将来の生活や福祉のために、他の相続人よりも多く財産を残したいと考える親は少なくありません。
中には「できれば全財産を障害のある子に相続させたい」と望まれるケースもあります。
ただし、他の法定相続人の遺留分や、制度上の制限にも配慮したうえで、確実かつ争いを生まない遺言を作成することが大切です。

1. 障害のある子にも法定相続分・遺留分がある

まず前提として、障害の有無にかかわらず、子どもはすべて法定相続人です。
そのため、遺言で特定の子に「全財産を相続させる」と記載することは可能ですが、他の子どもたち(法定相続人)には遺留分が保障されている点に注意が必要です。

例:

  • 子ども2人(うち1人が障害あり)
  • 遺言:障害のある長男に全財産を相続させる
  • → 健常な次男は遺留分として法定相続分の1/2 × 自身の取り分1/2=1/4 を請求可能

遺言によって長男に全額を渡すことはできますが、次男が遺留分侵害額請求をすれば、その分を金銭で支払う必要が出てきます

2. 他の相続人の理解と配慮がカギ

障害のある子のために全財産を残したいという親の気持ちがあっても、他の相続人に全く説明や配慮がないと、不公平感から争いになるリスクがあります。
以下のような対策が有効です。

  • 附言事項で理由を丁寧に説明する(例:将来の福祉費用、生活支援の必要性など)
  • 他の相続人に、遺留分を行使しないようお願いする表現を記載する(※法的拘束力はなし)
  • 可能であれば事前に話し合いを持つ

附言事項の例:

 長男〇〇は、障害により今後も公的支援と家族の援助を必要とします。
 そのため、私の財産はすべて長男に相続させ、生活の支えとしてほしいと考えています。
 次男〇〇には、何かと気遣ってくれたことに感謝しています。
 どうか本遺言の趣旨をご理解の上、遺留分の請求などはなさらないよう、心からお願い申し上げます。

3. 成年後見制度・信託制度の活用も検討

障害の程度によっては、相続しても財産管理が自力でできない場合があります。
その場合は、次のような制度を組み合わせて、財産の適切な管理・生活費の確保を図ることができます。

● 成年後見制度(法定・任意)

  • 障害のある子に後見人を付けて、相続財産の管理を支援
  • 任意後見契約を事前に結ぶことで、本人の意思に沿った支援体制を整備可能

● 福祉型信託(民事信託)

  • 信頼できる家族や専門職に財産を託し、障害のある子の生活のために管理・給付
  • 「親亡き後問題」に備えた柔軟な制度として近年注目

福祉型信託とは、信頼できる家族や専門家に財産の管理を託す仕組みです。例えば、親が亡くなった後に備えて、自分の財産を信託し、その使い道(生活費、医療費など)をあらかじめ決めておくことで、残された子の暮らしを継続的に支援することができます。民事信託(家族信託)の一形態であり、公的な制度とは異なりますが、柔軟に設計できるのが特徴です。遺言や後見制度だけではカバーしきれないケースにも対応でき、近年、「親なき後」対策として注目されています

4. 公正証書遺言がおすすめ

障害のある子への配慮や、他の相続人への配分など慎重な内容の遺言を残す場合は、公正証書遺言を選ぶのが安全です。
公証人が内容を確認し、法的要件の不備も防げるため、争いになったときにも有効性が確保されやすくなります

まとめ

障害のある子にすべてを相続させたいという思いは、強い親心によるものです
しかし、他の相続人の遺留分や感情面への配慮を怠ると、結果として争いが起き、望まない形で財産が分散されてしまうリスクがあります。
そのため、遺言・附言・制度活用・話し合いを組み合わせた、実現可能で誠実な相続設計が大切です。

【注意事項】
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法令や規制は頻繁に変更される可能性がありますので、必要に応じて最新の情報をご確認いただくことをお勧めいたします。
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