遺贈と相続の違い
遺言書を作成するにあたり、「相続」と「遺贈」という言葉を正しく理解することは非常に重要です。
どちらも「財産を遺す」ことに変わりはありませんが、法律上の意味や対象者、手続きの流れが異なります。
ここでは、両者の違いと使い分けのポイントを解説します。
1. 相続とは
相続とは、民法で定められた「法定相続人」が、被相続人の死亡によって自動的に財産を承継することをいいます。
遺言がある場合でも、相続人に対して財産を与えるときは「相続させる」という表現を用います。
例:
- 「長男 山田太郎に、東京都○区○町の土地を相続させる。」
このように、相続は法律に基づく包括的な承継であり、被相続人の財産・権利義務の一切(債務も含む)を引き継ぐのが原則です。
2. 遺贈とは
遺贈とは、遺言によって、特定の人に財産を贈与する行為をいいます。
相続人でない人(例:内縁の配偶者、友人、団体、孫など)に財産を与える場合に使います。
例:
- 「友人 佐藤健一に、○○銀行の預金100万円を遺贈する。」
- 「公益財団法人○○へ、○○町の土地を遺贈する。」
相続人に対して遺贈すると記すことは無効とはなりませんが、不動産登記の手続きなどの面で不利益が多く、推奨されません。
遺贈にはさらに次の2種類があります:
- 特定遺贈:特定の財産を指定して贈与する(例:土地、預金など)
- 包括遺贈:遺産全体またはその一部の割合を与える(例:「遺産の3分の1を○○に遺贈する」)
3. 相続と遺贈の違いのまとめ
| 区分 | 相続 | 遺贈 |
|---|---|---|
| 対象者 | 法定相続人 | 相続人以外も可 |
| 財産の承継範囲 | 債務も含めた包括承継 | 基本的に財産のみ |
| 表現 | 「相続させる」 | 「遺贈する」 |
| 承諾の要否 | 原則不要 | 受遺者が放棄する自由あり |
4. 実務での使い分けの注意点
相続人に対しても「遺贈する」と記載することは可能ですが、不動産の登記や税務上の扱いに差異が生じることがあります。
相続人に財産を承継させる場合は、「相続させる」と明記した方が手続きが簡易になるため、実務的にはおすすめです。
まとめ
相続は法定相続人への包括的承継、遺贈は遺言による特定または割合指定の贈与です。
文言の使い分けによって、手続きや権利関係に影響が出る可能性もあるため、遺言書では法的意味を踏まえた適切な表現を選ぶことが大切です。