死後事務委任契約について
遺言は、亡くなった方の最終意思を示す重要な手段ですが、実は遺言だけでは対応できない死後の手続きが数多く存在します。
特に、葬儀、火葬、役所届出、遺品整理などは、遺言が開封される前にすでに完了してしまっていることが多く、遺言では事実上指示できないことも少なくありません。
そのような手続きを事前に準備しておく手段が「死後事務委任契約」です。
1. 死後事務とは何か?
死後事務とは、死亡後すぐに必要となる実務的な手続きのことです。
たとえば次のようなものが該当します。
- 死亡届の提出
- 火葬・埋葬・葬儀の手配
- 住居の明け渡し、遺品整理、公共料金の停止
- 医療費や介護費の支払い
- 健康保険・年金等の脱退や未支給年金の手続き
これらは相続や遺産分割とは別の「生活整理」のための事務であり、遺族や関係者が短期間で対応を迫られるものです。
2. 遺言では死後事務をカバーできない理由
遺言書に「葬儀は家族葬で」や「遺品は処分してほしい」などの希望を書いても、それが開封される頃には、すでにほとんどの死後事務が終わっているのが現実です。
特に自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認が終わるまで内容の実行ができません。そのため、次のようなミスマッチが起こります:
| 手続き | 必要なタイミング | 遺言の開封時期 |
|---|---|---|
| 死亡届・火葬手続き | 死亡後7日以内 | 通常、死亡後2週間〜1か月以降 |
| 医療費・施設費の清算 | すぐに請求が来る | 遺言執行の前 |
| 遺品の整理・家財処分 | 家賃発生日などを考慮し早急に必要 | 遺言による指示が間に合わない |
このように、遺言は「財産の分配」には有効でも、「実務的な手続き」には間に合わないのです。
3. 死後事務委任契約とは?
死後事務委任契約とは、本人が生前に、死亡後の事務手続きを特定の人(家族、友人、行政書士など)に依頼する契約です。
多くの場合、公正証書で作成され、相手方(受任者)と合意のもとで成立します。
これにより、遺言では実現できない「葬儀の方法」「家財の処分」「役所への手続き」などを、希望通りに、確実に実行してもらうことができます。
4. 委任できる代表的な事務
- 死亡届の提出、火葬・埋葬の手続き
- 葬儀、納骨、永代供養の手配
- 病院・施設の支払いや退所手続き
- 電気・ガス・水道・携帯などの解約
- 遺品整理、家の明け渡し
- 年金・健康保険の脱退届、未支給年金の請求
5. 遺言と死後事務委任契約の違いと連携
| 項目 | 遺言 | 死後事務委任契約 |
|---|---|---|
| 目的 | 財産の分配・相続人の指定 | 死亡後の実務的な手続き |
| 発効の時期 | 死亡時 | 死亡後(契約に基づく) |
| 作成形式 | 単独行為(公正証書・自筆など) | 契約(受任者との合意) |
| 効果 | 遺産分割や遺贈が可能 | 死後事務(非財産的手続)に対応 |
6. どんな人に必要か?
- 家族や親族と疎遠なおひとりさま
- 子どもがいない夫婦
- 相続人はいるが、死後の手続きを任せられそうな人がいない
- 専門職(行政書士など)に中立に任せたい方
まとめ
遺言は相続の準備、死後事務委任契約は死後の生活整理の準備。
どちらか一方では不十分であり、両方を組み合わせることで、財産も生活も含めた「人生の終わりの備え」が完成します。
争いを避け、希望を実現し、家族の負担も軽くするために、遺言+死後事務委任契約という考え方をぜひご検討ください。