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認知症・意思能力低下による混乱
相続の現場では、相続人の中に認知症や意思能力の低下した方がいる場合、遺産分割協議が大きく遅延・混乱する原因となります。
意思能力が不十分な相続人がいる場合、その方の同意は法的に無効とされるため、協議自体が成立しないリスクがあります。
1. なぜ問題になるのか
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要ですが、認知症等で意思能力が不十分な相続人は、自分の判断で有効な意思表示ができません。
このような状態で協議書に署名・押印しても、法律上は無効となり、手続きが差し戻される可能性があります。
2. 意思能力が必要とされる主な手続き
- 遺産分割協議
- 相続放棄や限定承認の申述
- 不動産の相続登記
- 金融機関での相続手続き(口座の名義変更・解約)
3. 判断基準:意思能力とは?
意思能力とは、「自分が何をしているのかを理解し、その結果を予測できる能力」のことです。
医学的には認知症であっても、その時点の状況や判断能力によっては意思能力があるとされる場合もありますが、法的には非常に慎重な扱いが求められます。
4. 認知症の相続人がいる場合の対応
① 任意後見制度の活用(事前の備え)
本人が元気なうちに、将来に備えて信頼できる人と「任意後見契約」を結んでおく方法です。
発効には家庭裁判所での「任意後見監督人選任」が必要となります。
② 法定後見制度の申立て(すでに認知症の場合)
すでに意思能力が失われている場合は、家庭裁判所に法定後見の申立てを行い、後見人の選任を受ける必要があります。
後見人が選ばれれば、その方が本人に代わって遺産分割協議に参加できます。
③ 協議を急がないという判断も
急ぎの手続きがない場合は、介護環境や判断能力の変化を見守りながら、丁寧な準備のうえで後見手続きを進めることも選択肢の一つです。
5. 実務上の注意点
- 診断書や医師の意見書の取得で意思能力の有無を確認することが重要
- 後見申立ては時間と費用がかかる(数ヶ月以上かかることも)
- 財産管理や本人の福祉を守る観点から、一時的な代理では対応できない場面も多い
6. トラブル防止のための事前対策
- 将来的に不安がある場合は早めに任意後見契約を準備する
- 高齢の親が財産を管理している場合は、信託や共有名義などの活用も検討
- 遺言書に分割の方針を明記しておくと、相続人同士の協議が不要になる可能性も
7. まとめ
認知症や意思能力の低下は、相続手続きを長期化・複雑化させる大きな要因です。
後見制度や事前の契約、遺言書の作成などを活用し、元気なうちから「将来に備える」姿勢が、家族の安心につながります。