法定代理制度にはない「死後の委任」
本人の判断能力が不十分となった場合に備える制度として、「任意後見制度」や「成年後見制度」が存在します。これは、本人の生存中に限り、 財産管理や身上監護に関する代理権を、家庭裁判所の審判に基づいて後見人等に付与する制度です。
しかしながら、年後見制度や任意後見契約は、 あくまでも生存している本人を保護するための制度であり、死後の手続きについては法的に効力を及ぼさないという明確な限界があります。
このため、死後に必要となる各種の手続き(死亡届の提出や火葬・納骨の手配、住居の明け渡し、行政機関や金融機関への届け出等)については、 法定の代理制度では対応ができない状況に置かれるのです。
相続制度との違い
もちろん、死亡によって開始される制度として「相続」があります。相続人は被相続人の財産を承継する者として、一定の範囲で死後の手続きを担うことになります。 しかし、相続はあくまで財産的権利義務の承継に関する制度であり、たとえば遺体の引き取りや公共料金の解約、携帯電話の解約といった事務的処理まで、 必ずしも法的な義務として課されているわけではありません。
また、近年増加する「相続放棄」や「相続人不存在」のケースでは、相続人が実質的に関与しないまま死後の事務が放置されるリスクも高まっています。
「死後事務委任契約」の必要性
このように、現行法においては「死後」を対象とした包括的な代理制度は存在しません。そこで、近年注目されているのが、 民法上の委任契約に基づいて死後の手続きを第三者に託す「死後事務委任契約」です。
この契約は、本人の生前に締結され、死後に効力を生じる点で、従来の代理制度とは性質が異なります。委任された者は、 契約内容に従って本人の死後に発生する各種の事務処理を行う法的な根拠を有することになります。
法定代理制度では対応できない「死後の世界」を対象にした制度的な補完として、死後事務委任契約は特に単身者や高齢者にとって重要な選択肢となりつつあります。 これは、制度上の「空白地帯」を埋める民間的・契約的アプローチとして、今後ますますの認知と整備が求められる分野と言えるでしょう。