Q. 公正証書遺言は改ざんされない? 後から出てきた自筆遺言の懸念は?
A. 公正証書遺言は制度上、極めて改ざんされにくい形式ですが、後から自筆証書遺言が出てきた場合には、そちらが優先される可能性もあります。
このため、「形式上は改ざんではなくても、実質的には意思がねじ曲げられる」ような事態を防ぐ対策も重要です。
【解説】
■ 公正証書遺言は安全性が高い
公正証書遺言は、公証人が関与し、公証役場で原本が保管される最も安全性の高い遺言形式です。
改ざんや偽造、紛失のおそれは非常に低く、相続手続きでも高い証明力を持ちます。
■ しかし、後から自筆証書遺言が出てくるとどうなる?
民法では、後の日付の遺言が、前の遺言に優先するとされています(民法1023条)。
そのため、たとえ安全な公正証書遺言を作っていても、後日、自筆証書遺言が発見され、そちらが日付的に新しい場合には、自筆の方が優先される可能性があります。
これは形式的には合法でも、本人の真意に反する内容の遺言が意図的に「後から用意された」場合、実質的には改ざんに近い結果を生みます。
■ 故意に遺言をねじ曲げた場合の法的リスク
仮に、他の相続人や関係者が、被相続人の死後に都合の良い自筆証書遺言を偽造・変造・隠匿・作成させた場合、以下のような重大な法的責任が生じます。
● 相続欠格(民法891条)
以下のような行為を行った者は、相続人としての権利を失います(相続欠格)。
- 遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者
- 被相続人に詐欺や強迫で遺言をさせた者
● 刑事責任(公文書偽造罪・私文書偽造罪など)
遺言書の偽造・変造は、刑法上も重罪にあたります。
- 公正証書の偽造 → 公文書偽造罪(刑法155条)
- 自筆遺言を勝手に書いた → 私文書偽造罪(刑法159条)
いずれも懲役刑が科される可能性がある重大犯罪です。
■ 実務での対策:後出しの自筆遺言への備え
- 公正証書遺言の内容に「これ以前の遺言をすべて撤回する」旨を明記しておく
- 遺言の作成日や証人の情報を明確に残しておく(無効主張を防ぐ)
- 遺言作成時の映像・医師の診断書などを記録として残す(意思能力を証明)
- 信頼できる専門家(行政書士や弁護士など)に作成経緯を把握させておく
【まとめ】
公正証書遺言は非常に高い安全性を持つ制度ですが、民法上は「日付の新しい遺言」が優先されるルールのため、後から出てきた自筆遺言によって事実上の改ざんと同様の結果になるリスクも存在します。
そのため、相続欠格制度や刑事罰による抑止力とあわせて、事前の対策を講じておくことが、遺言の実効性を高めるうえで非常に重要です。