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不動産をめぐる争いを防ぐ遺言構成
相続財産の中で、特にトラブルになりやすいのが不動産です。
現金のように簡単に分けられず、共有名義や使い方をめぐって相続人間で意見が分かれることが多いため、遺言によって不動産の処理方法を明確に定めておくことが極めて重要です。
ここでは、不動産をめぐる相続トラブルを防ぐための遺言の構成方法について解説します。
1. なぜ不動産は争いの原因になるのか
- 分割が難しい(現物を分けることが困難)
- 共有にすると意見が合わず管理が複雑
- 金銭評価に差が出やすい(感情的価値、思い出など)
- 特定の相続人だけが住んでいる場合、他の相続人との利害が対立しやすい
これらの問題は、遺言によって誰に、どのように引き継がせるかを明確に示すことで、未然に防ぐことが可能です。
2. 明確な財産の特定が重要
不動産を遺言書に記載する際には、登記簿に基づく正確な表示を用いる必要があります。
記載例:
下記の不動産を長男〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
【所在地】東京都〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇
【地目】宅地 【地積】〇〇.〇〇平方メートル
【家屋番号】〇〇番〇 【種類】居宅 【構造】木造二階建 【床面積】〇〇㎡
3. 特定の相続人に不動産を集中させる場合の配慮
- 他の相続人に現金や他の資産を多めに分配して、バランスをとる
- 遺留分を侵害しないように配分を調整する
- 附言事項で理由や家族への感謝を伝えることで感情的な納得を得やすくする
4. 代償分割を前提とした遺言構成
不動産を相続させたい相続人がいる場合、その人が他の相続人に金銭を支払うことで公平を保つ「代償分割」を取り入れる方法があります。
記載例:
本件不動産は長女〇〇に相続させる。
長女は、相続手続き完了後6か月以内に、長男〇〇に対し、金300万円を代償金として支払うものとする。
代償分割の注意点
- 受遺者(不動産を取得する人)に支払い能力があるかを必ず検討すること。 相続税や登記費用もかかるため、資金繰りが難しいと履行できなくなる可能性があります。
- 不動産の評価額を客観的に算定すること。 固定資産評価額や路線価だけでなく、実勢価格や使用価値も考慮しておくと、納得されやすくなります。
- 代償金の金額と支払期限を明記することで、後のトラブルを防ぐことができます。
- 遺留分との関係も整理しておく。 代償分割をしても、他の相続人が遺留分侵害額請求を行う可能性があるため、事前に配分全体を検討しておく必要があります。
5. 配偶者が居住している場合の注意
配偶者が住んでいる不動産を他の相続人に相続させると、配偶者が住み続けられなくなる可能性があります。
以下のような対策が考えられます。
- 配偶者に不動産を相続させる
- 配偶者居住権を遺言で設定する
- 使用貸借の合意を遺言で明示する
まとめ
不動産は、財産価値が高く、分割が難しく、感情的対立も生じやすい資産です。
だからこそ、遺言によって誰に・どの不動産を・どのように相続させるのかを明確に記載し、必要に応じて代償分割や配偶者居住権の設定を取り入れることが、争いを防ぐうえで効果的です。
さらに、不動産の評価・納税資金・遺留分への配慮といった実務面まで含めて検討し、専門家と連携しながら設計することをおすすめします。