病院・施設・賃貸住宅などの退去手続き
死後直後に求められる現場の対応
人が亡くなった際、病院や介護施設、賃貸住宅といった「居住・滞在の場」からの速やかな退去が求められます。これらの場所はいずれも、継続的な利用を前提とした契約関係にあるため、 死亡により契約が終了する一方で、退去と原状回復、残置物の処理といった手続きが生じます。
たとえば病院や施設では、他の入所者への影響や施設運営の都合上、一定の時間内に遺体と遺留品を搬出するよう求められることが一般的です。 また、賃貸住宅では死亡によって賃貸借契約は終了するものの、家財道具の整理や原状回復義務が残ります。これらの対応には、短期間で複数の実務処理が集中するため、 死後事務の中でも最も実務的な負担の大きい分野のひとつです。
退去に関する契約上の整理
賃貸借契約や施設利用契約には、死亡時の退去に関する条項が設けられていることもありますが、契約上の処理と実務上の対応にはタイムラグが生じます。 原則としては相続人が退去手続きを行う立場にありますが、相続放棄や連絡不能等により、実質的に誰も対応しないという状況も少なくありません。
死後事務委任契約において、受任者が退去手続き・家財整理・原状回復の立会い・鍵の返還などを委任されている場合、これらの作業を速やかに進めることが可能となります。 ただし、契約上の権限だけでは、貸主や施設側が対応に応じるかどうかは保証されず、事前の調整や信頼関係の構築が重要です。
残置物と遺品の扱い
特に賃貸住宅では、「残置物」の処理が問題となります。法律上は、死亡した賃借人の動産類は相続財産であり、勝手に処分することはできません。 受任者がこれを整理・処分する場合には、契約に明確な委任内容が含まれていることが必要であり、可能であれば相続人の了解も得ておくべきです。
相続人が不在または不明の場合、物件の貸主が独自に処理することは法的リスクを伴うため、対応が長期化することもあります。 このような状況に備えて、死後事務委任契約の中で、遺品の処分や必要に応じた業者の手配などを包括的に委任しておくことが実務上極めて有効です。
退去に伴う金銭精算
賃料・施設利用料・医療費・原状回復費用など、退去にあたって発生する費用の清算も重要な項目です。死後事務委任契約において、受任者が預かった金銭の中から 精算を行うケースが多く、支払い義務の所在を明確にしておくことがトラブル防止につながります。
支払いが困難な場合や、相続人による遺産分割が確定していない場合には、財産管理人の選任や裁判所の手続きが必要になることもあり、 事前に処理の流れを想定した契約設計が求められます。
総合的な死後対応の中での位置づけ
病院・施設・賃貸住宅の退去手続きは、死後事務の初動として極めて重要であり、社会的な迷惑や混乱を最小限に抑えるための鍵となる部分です。 契約の整備だけでなく、日頃から関係機関との連絡体制を整えておくことが、円滑な死後対応の実現に直結します。