死後事務委任契約をしていなかった場合はどうなるのか
単身者が亡くなった後
単身者や、家族と疎遠な高齢者が亡くなった場合、その死後の対応を誰が行うのかが明確でないまま、事務的・社会的混乱が生じることがあります。 死後事務委任契約などの備えがない場合、遺体の引き取り、火葬、行政手続き、遺品整理など、必要な手続きが滞るおそれがあります。
特に都市部では、高齢単身者が自宅で亡くなり、数日後に発見される「孤独死」のケースが年々増加しています。こうした場合、第一報を受けるのは警察であり、 その後、関係者の特定と対応が急務となります。
行政や警察の一次対応
親族などの連絡先が分からない場合、遺体は一時的に警察や医療機関で保管されます。警察は戸籍情報などをもとに親族を探索しますが、 見つからない、あるいは発見されても対応を拒否されるケースも少なくありません。
このような場合、一定期間が経過すると自治体が「行旅病人及行旅死亡人取扱法」(いわゆる行旅死亡人規程)に基づき、火葬や埋葬を行うことになります。 ただし、この制度は本来「住所・身元が不明な者」のためのものであり、身元判明者に対しては原則的に適用されません。やむを得ず適用される場合でも、 火葬後の遺骨は公営納骨堂に一時的に保管されるか、無縁仏として扱われることが多いのが実情です。
相続人がいる場合といない場合
相続人が存在する場合、最終的には相続人が事務処理を行うべき立場になりますが、遺体の引き取りや遺品整理など、実際に動く意思があるとは限りません。 また、相続人が相続放棄をした場合は、以降の死後事務の担い手が不在となり、行政負担が増す要因になります。
一方、相続人が全く存在しない場合には、「相続人不存在」として家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てることになりますが、 選任・公告・手続き完了までには長期間を要するため、急を要する死後事務の対応には適しません。
社会的コストと周囲への影響
死後事務の担い手が明確でないことは、行政だけでなく、病院、施設、大家、不動産管理会社、近隣住民など、 周囲の関係者にも大きな負担を強いることになります。家財の放置、家賃の滞納、契約関係の不履行、悪臭や衛生面の問題など、 想定以上の社会的コストが発生することもあります。
備えの有無が分岐点となる
死後事務委任契約がないということは、死後に何をどう進めるかを「誰も知らず」「誰も責任を持たず」「誰も動けない」状態を意味します。 特に単身者にとっては、契約の有無が、その人の死後の尊厳と社会的整理の明暗を分ける現実的な分岐点となります。
したがって、自身の死後に必要となる手続きや意向について、早い段階から具体的に検討し、必要な契約や準備を講じておくことは、 自らの意思を尊重しつつ、周囲に余計な混乱や負担を与えないためにも極めて意義深いものといえるでしょう。