法律上の義務はあるのか? | 身元保証の法的な問題点 | 身元保証

法律上の義務はあるのか?

医療機関や介護施設への入院・入所に際して、「保証人をつけてください」と言われることがあります。しかし、実際のところ、身元保証人を立てることは法的に義務づけられているのでしょうか? この問いに対する答えは、「原則として法的義務はない」というのが現行の法制度における基本的な立場です。

身元保証に関する法律の有無

現在の日本の法律において、「入院や施設入所の際に身元保証人を立てなければならない」という直接的な義務を定めた法律は存在しません。民間の契約として施設や病院が独自に身元保証を求めることはありますが、それは法律に基づく義務ではなく、各事業者が自主的に定めている契約条件に過ぎません。

厚生労働省の見解

厚生労働省は、たとえば特別養護老人ホームに関する運営指針の中で、「保証人がいないことを理由に入所を拒んではならない」と明示しています。また、医療においても、「身元保証人がいないことをもって治療を拒否することは望ましくない」という指針を出しています。人権や医療アクセスの観点から、保証人がいないことを理由に不利益を与えるべきではないという姿勢が示されているのです。

以下に根拠となる厚労省の通知を記します。お願いとなっていますが、これは厚労省から行政機関(地方自治体等)への必要に応じた指導を行うべきことを要請する通知です。ですから、守られない場合は行政機関から通知に基づく是正指導が入ることとなります。

身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて

医療機関において、患者に身元保証人等がいないことのみを理由に、入院を拒否する事例が見受けられるが、当該事例については下記のとおり解すべきものであるので、貴職におかれては、貴管下保健所設置市、特別区、医療機関及び関係団体等への周知をお願いするとともに、貴管下医療機関において、患者に身元保証人等がいないことを理由に入院を拒否する事例に関する情報に接した際には、当該医療機関に対し適切な指導をお願いする。

医師法第19条第1項において、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と定めている。ここにいう正当な事由」とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、入院による加療が必要であるにもかかわらず、入院に際し、身元保証人等がいないことのみを理由に、医師が患者の入院を拒否することは、医師法第19条第1項に抵触する。

平成30年4月27日付け医政医発0427第2号

市町村や地域包括支援センターにおける身元保証等高齢者サポート事業に関する相談への対応について

平成30 年3月の全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議でも周知したところであるが、介護保険施設に関する法令上は身元保証人等を求める規定はなく、各施設の基準省令においても、正当な理由なくサービスの提供を拒否することはできないこととされており、入院・入所希望者に身元保証人等がいないことは、サービス提供を拒否する正当な理由には該当しない。

介護保険施設に対する指導・監督権限を持つ都道府県等におかれては、管内の介護保険施設が、身元保証人等がいないことのみを理由に入所を拒むことや退所を求めるといった不適切な取扱を行うことのないよう、適切に指導・監督を行うようお願いする。

平成30年8月30日付け厚生労働省 老高発0830第1号第2号

契約自由の原則と実務上の慣行

一方で、民間施設や病院は契約自由の原則に基づき、独自に「身元保証人が必要」という条件を設けることができます。つまり、法的には義務ではなくとも、現実には身元保証人がいなければ契約できない(=入所・入院できない)という運用がなされている場合も多く、法と実務のギャップが生じています。

義務はないが、必要とされる現実

以上のように、法律上は保証人をつける義務はありませんが、実務上は「つけなければ入れない」という事実上の強制力が存在するのが実情です。そのため、「義務がない=準備しなくてよい」とは言い切れず、現場の対応を理解した上で、代替手段を含めた備えが必要です。

後の項目では、このような法と現場のズレが引き起こす問題や、実際にトラブルになった事例についても詳しく解説していきます。

【注意事項】
本記事は、法律に関する一般的な情報を提供するものであり、個別具体的な案件についての助言を行うものではありません。特定の事案や状況に応じた判断が必要な場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。

また、正確性を期すよう努めておりますが、本記事の内容についての完全な正確性や最新性を保証するものではなく、本記事の利用により生じたいかなる損害についても当方は一切の責任を負いかねます。

法令や規制は頻繁に変更される可能性がありますので、必要に応じて最新の情報をご確認いただくことをお勧めいたします。
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