遺留分の放棄
遺言による自由な財産の配分には限界があり、一定の相続人には最低限の相続を保証する「遺留分」という権利が認められています。
しかし、この遺留分は生前に家庭裁判所の許可を得て放棄することが可能です。また、相続開始後に遺留分侵害額請求をしないという選択も、事実上の放棄とみなされます。
ここでは、「遺留分の放棄」について、その手続きと実務上の注意点を整理します。
1. 遺留分の放棄とは
遺留分の放棄とは、本来保障されている遺留分をあらかじめ(生前に)放棄することをいいます。
この放棄が有効となるのは、家庭裁判所の許可を得た場合のみです(民法1043条)。
勝手に書面を交わしただけでは無効となります。
【放棄できるのはいつ?】
- 生前の放棄:家庭裁判所の許可が必要
- 死後の請求放棄:家庭裁判所の許可不要(遺留分侵害額請求をしないだけ)
2. 生前に遺留分を放棄する手続き
① 家庭裁判所に申立て
相続開始前に遺留分を放棄するには、相続人予定者が家庭裁判所に申立てを行います。
被相続人の同意や、放棄に合理的理由があるかが審査されます。
② 必要書類(例)
- 遺留分放棄の許可申立書
- 申立人と被相続人の戸籍関係書類
- 放棄に至った経緯・理由を説明した上申書
- 被相続人の財産内容に関する資料(場合による)
③ 裁判所の判断ポイント
- 放棄が自由意思に基づくか
- 見返り(贈与等)があるか
- 放棄に合理性があるか
3. 相続開始後に遺留分を「行使しない」という選択
遺留分は請求しなければ効力が生じない権利です。
相続開始後に「遺留分侵害額請求をしない」と決めた場合、それは黙示的な遺留分放棄と扱われ、争いを避けることができます。
【このような場面で有効】
- 遺言によって他の相続人に多く相続させたが、全員が納得している
- 相続財産の大半が不動産で、現物分割が困難なため、配偶者に集中させる
4. 遺留分放棄のメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ・特定の相続人に財産を集中させられる ・遺言の実現性が高まる ・将来の紛争防止になる |
・放棄した人は基本的に金銭請求できない ・相続時の状況変化に対応できない可能性 ・他の相続人との不公平感が生じることも |
5. 実務上の注意点
- 口約束や自筆の覚書だけでは無効です(生前放棄には家庭裁判所の許可が必要)
- 遺留分を放棄したからといって相続放棄したことにはならないため、財産は取得できる可能性もあります
- 放棄の理由が贈与や援助の見返しである場合は、特別受益との整合性にも注意
6. まとめ
遺留分の放棄は、相続の自由度を高めつつ、将来のトラブルを予防する有効な手段です。
ただし、生前に放棄するには家庭裁判所の許可が必要であり、手続きや理由付けには慎重な準備が必要です。
遺言や生前贈与と併用することで、より明確で納得のいく相続設計が可能になります。
不公平感や誤解を避けるためにも、家族との話し合いや専門家への相談を通じて適切に対応していくことが重要です。