特別受益や寄与分をめぐる争い
相続においてしばしば争いの火種となるのが、「特別受益」と「寄与分」に関する問題です。これらは、被相続人が生前に行った贈与や、相続人の生前の貢献が評価対象となる制度で、相続財産の分け方に大きな影響を与えます。
しかし、感情や認識の違いが反映されやすく、法的判断が難しいケースが多いため、トラブルに発展しやすい分野です。
1. 特別受益とは
特別受益とは、相続人のうちの一人が被相続人から生前に受けた贈与や遺贈など、特別な利益を指します。これがある場合、相続財産に持ち戻して計算し、他の相続人と公平に分け直す必要があります(民法903条)。
特にいつの贈与までさかのぼるか明文化されていません(実務上はおおむね5~10年)。対して相続税の対象となる贈与は3年以内に限られます。
特別受益の評価額は、贈与当時ではなく相続開始時の額となります。
【主な例】
- 住宅購入のための資金援助
- 結婚資金、開業資金
- 高額な学費の支援(留学費用など)
- 相続人のみに対する遺贈
【トラブル例】
長男が自宅の購入時に2,000万円の援助を受けていたが、他の兄弟は何ももらっていなかった場合、「それは特別受益だ」「いや親の好意だった」などの認識の違いで対立が起こる。
2. 寄与分とは
寄与分とは、相続人の中で被相続人の財産形成や維持、療養看護などに特別な貢献をした者がいる場合に、その分を考慮して多く相続できるよう調整する制度です(民法904の2)。
相続人に限られるが、その配偶者や子であっても相続人自身の貢献とみなすことができる場合は主張できます。
認められるには厳格な要件を満たす必要があります(通常の介護などでは認められにくい)。遺言によって多く指定することが無難で望ましいです。
【主な例】
- 長年(1年以上とされることが多い)にわたる介護
- 無償で相当期間、家業を手伝ってきた
- 被相続人の借金を肩代わりした
【トラブル例】
同居していた長女が母の介護を10年以上してきたが、他の兄弟が「それは当然のこと」「報酬はもらっていた」などと主張し、寄与分として認めないよう争うケース。
3. 特別受益と寄与分の違い
| 区分 | 特別受益 | 寄与分 |
|---|---|---|
| 意味 | 生前贈与や遺贈による利益 | 財産形成・維持への特別な貢献 |
| 調整方法 | 持戻し計算で相続分を減らす | 寄与分を加算して相続分を増やす |
| 対象となる人 | 相続人 | 相続人(第三者は不可) |
4. 実務上の注意点
- 特別受益・寄与分の主張には客観的な証拠が求められる(契約書、通帳記録、介護記録など)
- 他の相続人の納得を得られるような説明が重要
- 協議で解決できない場合は、家庭裁判所で調停・審判となる
5. 対策とアドバイス
- 生前に贈与を受けた事実があれば記録を残す(領収書や贈与契約書など)
- 介護などの貢献は、日記や介護記録、同居状況の証明が有効
- 遺言書に特別受益や寄与分を考慮した分配方針を明記しておくことで、争いを防げる
- 遺言の中に付言事項(家族へのメッセージ)を添えることで、感情的な対立を和らげる効果も
相続における「公平」は、必ずしも「平等」ではありません。
被相続人の思いや相続人の事情を考慮したバランスの取れた遺産分割設計が、紛争防止への第一歩となります。