相続税のしくみと基礎控除 | 相続税の基礎知識と対策 | 相続の手引き

相続税のしくみと基礎控除

相続税とは、被相続人の財産を相続や遺贈によって取得した人に対して課される税金です。
しかし、相続税はすべての相続に課されるわけではなく、「基礎控除」と呼ばれる非課税枠があり、一定額以下であれば課税されません。
ここでは、相続税の全体的な仕組みと、基礎控除の考え方をわかりやすく解説します。

1. 相続税の基本構造

相続税は、まず遺産全体の総額を把握し、そこから非課税財産・債務・葬式費用などを差し引いた課税遺産総額を算出します。
そこに基礎控除を適用し、超過部分が課税対象となります。

【相続税課税までの流れ(簡略版)】

  1. 遺産総額を算出(不動産・預貯金・有価証券・保険金等)
  2. 相続開始前3年(2024年1月以後の贈与は7年)以内の贈与財産を加算
  3. 相続時精算課税による贈与財産を加算
  4. みなし相続財産(生命保険金や死亡退職金)を加算
    みなし相続財産は相続の対象ではなく受取人の財産であるが、相続税の対象にはなる
  5. 非課税財産(墓や仏壇など)を差し引く
    非課税財産の未払い代金については債務控除の対象とはならない
  6. 債務・葬式費用(香典返しや初七日法要の費用は対象外)を差し引く
  7. 基礎控除額を差し引く
  8. 課税対象額に対して税率を適用し、相続人ごとの税額を計算
  9. 1親等の血族以外の者(孫(代襲相続を除く)、孫養子、兄弟姉妹など)については2割加算となる

2. 非課税財産

以下の財産は、相続税の計算から控除されます(別途条件あり)。

基礎控除と同様、相続放棄した者も含めて計算します。

  • 生命保険金のうち、500万円 × 法定相続人の数
  • 死亡退職金のうち、同上の額
  • 墓地・仏壇・祭具など

生命保険(一時払い終身保険)を活用して、相続税を抑える方法が節税策として一般的です。

3. 相続税の基礎控除とは

基礎控除とは、遺産総額から無条件で差し引くことができる非課税枠です。
遺産がこの金額以下であれば、相続税は発生しません。

【基礎控除の計算式】

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

【具体例】

法定相続人が3人(配偶者+子2人)の場合:

3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

遺産総額が4,800万円以下であれば、相続税はかかりません。

4. 法定相続人の数え方(注意点)

基礎控除の計算で使用する「法定相続人の数」は、実際に相続を放棄した人も含めてカウントされます。ただし、次の点に注意が必要です。

  • 相続放棄者も人数に含める(基礎控除の計算上)
  • 養子は1人まで(実子がいない場合は2人まで)しか控除人数に含められない

5.相続税の計算方法

  1. 各人の課税価格(課税の対象となる相続財産の通算価格)を計算
  2. 課税価格の合計を求める
  3. 基礎控除分を減ずる
  4. 基礎控除分を減じた額を法定相続分で分けて、それぞれ相続税額を計算する(仮の相続税額を求める)
    遺言や遺産分割協議に基づく相続分ではなく、法定相続分で計算します
  5. 各人の相続分に応じて、相続税額を計算
  6. 各人について配偶者控除などの控除を行う

相続税計算で用いる速算表

  1000万 3000万 5000万 1億 2億 3億 6億 6億超
税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 なし 50万 200万 700万 1700万 2700万 4200万 7200万

相続財産が1億2,800万円、配偶者が2分の1、子が8分の5、8分の3とする遺言に基づく相続税は以下の通り計算する。

配偶者と子が2人いる場合、基礎控除を考慮すると8,000万円が課税遺産総額となります。

遺言や遺産分割協議の結果に関わらず、相続税はまず法定相続分に基づいて仮に計算されます。法定相続分は配偶者が1/2、子がそれぞれ1/4ずつですから、

  • 配偶者:4,000万円 × 税率20% − 控除額200万円 = 600万円
  • 子(各2,000万円):2,000万円 × 税率15% − 控除額50万円 = 各250万円

この段階での相続税の総額は600万円+250万円+250万円=1,100万円となります。

しかし、配偶者には「1億6,000万円または法定相続分まで」の相続税額が非課税になる配偶者控除があります。この例では配偶者の相続分(4,000万円)はその範囲内であるため、配偶者の600万円分は全額非課税となり、実際に発生する相続税は子の分である500万円のみとなります。

この500万円の負担を誰がどれだけ負担するかは、遺言や遺産分割協議で定められた実際の相続取得割合に応じて決定されます。したがって、今回の場合は、以下のように計算されます。

  • 長男(2,500万円 ÷ 4,000万円)× 500万円 = 312万5,000円
  • 次男(1,500万円 ÷ 4,000万円)× 500万円 = 187万5,000円

このように、相続税の計算は法定相続分で行い、控除適用後の実際の税額は実際の取得割合で配分されるため、遺言や分割内容によって納税額は変動します。

このような事例では一時払い終身保険を使用するなどして、相続税を抑えることを検討します。

6.相続税の納付

申告期限までに金銭による一括納付が原則です(納付書)。ただし、不動産である場合などの事情によっては税務署長の許可によって延納や物納が認められます。

基礎控除によって相続税が発生しない場合(0円)は申告も手続きも不要です。ただし、基礎控除では相続税が発生するものの、更に配偶者控除を使えば相続税が0円になる場合については、申告の必要があります。

7. 実務アドバイス

基礎控除の範囲内であれば申告不要ですが、遺産総額が控除額に近い場合や、土地の評価が難しい場合には注意が必要です。
相続税申告が不要であっても、相続登記や金融機関手続きの際に遺産総額の説明を求められるケースもあります

特に、不動産の相続評価や生命保険の非課税枠の適用などは、個別に判断が必要なため、税理士などの専門家に相談されることをおすすめします。

【注意事項】
本記事は、法律に関する一般的な情報を提供するものであり、個別具体的な案件についての助言を行うものではありません。特定の事案や状況に応じた判断が必要な場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。

また、正確性を期すよう努めておりますが、本記事の内容についての完全な正確性や最新性を保証するものではなく、本記事の利用により生じたいかなる損害についても当方は一切の責任を負いかねます。

法令や規制は頻繁に変更される可能性がありますので、必要に応じて最新の情報をご確認いただくことをお勧めいたします。
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