調停・訴訟に発展した場合の注意点
遺留分侵害額請求は、まずは当事者間での話し合い(任意交渉)によって解決を目指しますが、合意に至らない場合には家庭裁判所での調停、さらに訴訟(裁判)に発展することがあります。ここでは、調停・訴訟になった際の手続きの流れと実務上の注意点について解説します。
1. 家庭裁判所での調停手続き
相手方との交渉が難航し、合意が見込めない場合は、家庭裁判所に「遺留分侵害額請求調停」の申立てを行うことができます。調停は、裁判官と調停委員(中立的な第三者)が間に入り、話し合いによる解決を図る制度です。
【主な特徴】
- 感情的な対立がある場合でも、冷静な話し合いが可能
- 当事者同士が直接顔を合わせずに個別面談形式で進められることが多い
- 合意が成立すれば調停調書が作成され、確定判決と同様の効力を持つ
【申立先・必要書類】
- (遺留分を侵害している)相手方の住所地を管轄する家庭裁判所
- 申立書、戸籍謄本、相続関係説明図、遺産目録、評価資料(固定資産評価証明書など)
- 収入印紙・郵便切手(裁判所により異なる)
2. 調停が不成立の場合は訴訟へ
調停でも合意に至らなかった場合、または相手方が出頭しない場合などは、地方裁判所に対して遺留分侵害額請求訴訟を提起することになります。これは金銭の支払いを求める民事訴訟であり、法的に強制力のある判決を得ることができます。
【訴訟の注意点】
- 証拠資料の提出が必須(贈与・遺贈の金額、遺産評価など)
- 法的な主張整理や書面作成が求められるため、弁護士の関与がほぼ不可欠
- 判決が確定すれば、強制執行によって支払いを求めることが可能
3. 実務上の注意点
(1)早めの手続きが肝心
遺留分侵害額請求には時効(1年・10年)があるため、感情的対立や交渉の長期化により時効を迎えないよう、早めに調停・訴訟の準備を進めることが重要です。
(2)財産評価の基準に注意
不動産や非上場株式などの評価額を巡って争いになることがあります。評価資料(固定資産評価証明書、不動産鑑定書、財産目録など)を用意し、客観的な根拠を持って請求額を主張することが求められます。
(3)感情的な対立のエスカレートを防ぐ
調停や訴訟に進んだ場合、家族間の関係がさらに悪化する可能性があります。感情に任せず、冷静な視点で対応することが、長期的に見ても最善策です。
4. 実務アドバイス
遺留分を巡る争いは、法律的な知識だけでなく財産評価、書面作成、対人交渉のバランスが問われる高度な手続きです。
調停や訴訟を検討する段階になったら、弁護士など専門家と連携し、時効を意識しながら慎重かつ的確に対応することが大切です。