受託者の死亡・辞任・不正への対応
信託の中核を担う「受託者」の役割
家族信託において、受託者は信託財産を管理・運用する中心的な立場です。
そのため、受託者が死亡したり辞任したり、また不正を行った場合には、信託の継続自体が危ぶまれる事態となります。
ここでは、受託者に何かあったときの対応方法と、契約時点での備え方について解説します。
受託者が死亡した場合の対応
受託者が亡くなると、その人に委ねられていた信託財産の管理がストップします。
信託契約に後継受託者の定めがあれば、その人が新たな受託者として就任します。
契約に後継受託者の定めがない場合、原則として家庭裁判所で選任された受託者(補充受託者)が就任することになりますが、実務上は時間がかかるため、できるだけ契約で後継者を指定しておくことが重要です。
受託者が辞任した場合の対応
受託者は、正当な理由があれば辞任することができます。
辞任後の対応は、死亡時と同様に後継受託者の就任が原則です。
信託契約書に「辞任の手続き」や「辞任後の引き継ぎ方法」が明記されていないと、スムーズな継承が困難になります。
- 辞任届の提出(委託者・受益者に通知)
- 帳簿や通帳などの財産管理記録の引き継ぎ
- 登記がある場合は、受託者変更登記
受託者が不正を行った場合の対応
受託者が信託財産を自己の利益のために使用したり、帳簿を開示しないなどの不正行為があった場合、受益者または委託者が受託者の解任を請求することができます。
信託法では、以下のような場合に裁判所へ受託者解任の請求が可能とされています。
- 受託者が信託財産を適正に管理していない
- 受益者の利益を著しく損なっている
- 信託目的の達成が著しく困難になっている
解任が認められた場合は、後継受託者の就任や、新たな受託者の選任が必要になります。
受託者変更の登記が必要な場合
信託財産に不動産が含まれる場合は、受託者の交代にともなって信託登記の変更(受託者の名義変更)が必要です。
変更登記には、次のような書類が必要になります。
- 信託契約書
- 旧受託者の死亡診断書や辞任届
- 新受託者の就任承諾書
- 受益者・委託者の同意書(場合により)
契約時点での備えが信託の安定を左右する
受託者に何かあったとき、家族が困らないようにするためには、契約時点で次のような備えをしておくことが大切です。
- 後継受託者・予備受託者を契約書であらかじめ指定しておく
- 辞任や解任の手続き・要件を明記しておく
- 帳簿や管理方法を明確にしておき、誰が引き継いでも困らない状態を保つ
まとめ
- 受託者が死亡・辞任・不正をした場合、信託は大きな影響を受ける
- スムーズな交代には契約上の準備が不可欠
- 信託登記がある場合は名義変更登記も必要
- 不正がある場合は解任・裁判所への請求も可能
家族信託は人の信頼に基づく制度です。
だからこそ、「信頼して任せられる人」に万が一があったときの備えが、信託の継続と安心を守ります。