障害のある子のための家族信託と税
贈与税と家族信託の関係
家族信託において、受益者を障害のある子どもに設定する場合、最初の信託設定時点で贈与税が発生する可能性があります。
たとえば、父が所有する不動産や預金を、障害のある長男を受益者として信託し、次男を受託者とする場合——
経済的利益(受益権)が父から長男へ移転したとみなされ、贈与税の課税対象になるのが原則です。
このような課税を避けるためには、次のような段階的な設計が有効です。
- 第1受益者を父自身(委託者と同一)とする → 贈与税なし
- 父の死亡後、第2受益者として障害のある子が受益権を取得 → 相続税で整理
相続税の扱いと障害者控除
障害のある子どもが相続(または受益権の承継)によって財産を取得する場合、相続税の「障害者控除」が適用されます。
| 障害区分 | 控除額の計算式 |
|---|---|
| 一般障害者 | (85歳 − 相続開始時の年齢)× 10万円 |
| 特別障害者 | (85歳 − 相続開始時の年齢)× 20万円 |
たとえば、40歳の特別障害者が相続する場合、900万円が相続税の課税価格から控除されます。
この控除を活用することで、実際の税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
信託終了時の課税(帰属時)
受益者である障害のある子が死亡し、信託が終了した場合、財産はあらかじめ定めた帰属権利者(たとえば兄弟)に移ります。
このとき、信託終了の原因が「受益者の死亡」であるため、税務上は“相続”として扱われ、帰属権利者に相続税が課税されるのが原則です。
つまり、父→子→兄弟と2回の相続税が発生する可能性がありますが、これは信託を用いても完全に回避することはできません。
ただし、信託により財産の流れを明確に指定しておくことで、遺産分割協議や感情的なトラブルを回避し、税務手続きも円滑に行えるメリットがあります。
特別障害者扶養信託制度との比較
贈与税の優遇制度として、特別障害者扶養信託制度があります。
- 贈与税が最大6,000万円まで非課税
- 受託者は信託会社や信託銀行に限られる
- 生活給付型の設計が基本
この制度は贈与税対策としては非常に有利ですが、家族が直接管理したい場合には使えないという制約があります。
おすすめの設計例
税務と実務のバランスをとるなら、次のような信託設計が有効です。
- 委託者・第1受益者:父 → 贈与税を回避
- 第2受益者:母(配偶者) → 遺産分割の調整も可能
- 第3受益者:障害のある長女 → 生涯にわたる生活支援
- 受託者・帰属権利者:長男 → 管理と承継を一貫して担う
このように設計することで、贈与税の回避・相続税の整理・長期支援の実現がすべて可能になります。
まとめ
- 障害のある子を受益者とする信託では贈与税・相続税の発生時期と内容を正確に理解することが大切
- 贈与税の回避には、委託者=第1受益者の設計が有効
- 障害者控除を活用すれば、相続税負担を大きく軽減できる
- 特別障害者扶養信託制度との違いを理解し、目的に応じた制度選択を
- 長期の支援・税務の整理を見据えた信託設計が、家族の安心につながる
税のしくみを理解した上で、制度を味方につける設計ができれば、障害のある子の人生にとって大きな支えになります。
専門家のサポートを受けながら、早めの準備が何よりの安心です。