信託設定時・終了時の課税関係
信託と税金の基本的な考え方
家族信託では、信託財産の「名義」が委託者から受託者に移ります。
しかし、それだけで贈与や相続が発生したとみなされるわけではありません。
税務上は「実質的に誰が利益を得るか(=受益者)」が重要です。
信託設定時の課税関係
信託を開始した際の税金の取り扱いは、「委託者」と「受益者」の関係によって異なります。
| 信託の形態 | 課税の種類 | 内容 |
|---|---|---|
| 委託者=受益者 | 課税なし | 名義変更があっても、利益の帰属は変わらないため非課税 |
| 委託者≠受益者 | 贈与税 | 他人に利益を移したとみなされ、贈与税の対象になる可能性あり |
贈与税が課税されるのは「利益(受益権)」が他者に移る場合です。
単に名義を移しただけ(=受益権は委託者のまま)であれば、課税はされません。
登録免許税・不動産取得税
信託財産に不動産が含まれる場合、名義変更時に登録免許税が発生します。
- 登録免許税:評価額の0.4%(信託設定による所有権移転登記)
- 不動産取得税:信託設定時には通常かからない(贈与とみなされた場合は例外あり)
これらは課税対象が「形式的な移転」にも及ぶ例外であるため、注意が必要です。
信託運用中の課税
信託財産から生じた利益(賃料収入・配当・利息など)については、受益者に課税されます。
つまり、受託者ではなく受益者が所得税の納税義務者となります。
- 賃料収入 → 受益者の不動産所得
- 株式の配当 → 受益者の配当所得
- 利息収入 → 受益者の利子所得
受託者は納税義務を負いませんが、受益者に代わって申告を補助することは可能です。
なお、信託財産に含まれる不動産に関する固定資産税については、登記名義が受託者名義となるため、納税通知書は受託者のもとに届きます。しかし、税務上の納税者は受益者であるため、受託者が受益者の利益のために、信託財産から税金を支払うという位置づけになります。
信託終了時の課税関係
信託終了時に財産が帰属する相手(帰属権利者)によって、課税関係が異なります。
| 帰属権利者 | 課税の種類 | 内容 |
|---|---|---|
| 相続人(死亡による信託終了) | 相続税 | 通常の相続と同様に課税 |
| 相続人以外(生前終了や第三者) | 贈与税 | 利益の移転とみなされるため贈与税の対象 |
信託が終了して財産が動く=課税の可能性があるという理解が基本です。
特に帰属先が相続人でない場合、思わぬ贈与税が発生することもあるため、事前の検討が重要です。
まとめ
- 信託設定時の課税は、「受益者が誰か」で変わる
- 委託者=受益者なら贈与税の心配は不要
- 不動産がある場合は登録免許税が必ず発生
- 運用中の利益は受益者の所得として課税
- 信託終了時の帰属先によって相続税または贈与税が課される
信託は柔軟で便利な制度ですが、税務の理解と計画が不可欠です。
事前に税理士と連携して、想定外の税負担が生じないよう、丁寧な設計を行いましょう。