信託と遺言・株主総会の連携
家族信託は、事業承継における株式管理や経営権の移行に有効な手段です。
しかし、信託だけで全てを完結できるわけではなく、遺言や会社法上の仕組み(株主総会)との連携が必要不可欠です。
信託と遺言の役割分担
信託契約で管理できるのは、「信託財産」として指定されたものに限られます。
そのため、以下のような部分は遺言で補完することが望ましいです。
- 信託財産に含まれていない現金・預金・動産の分配
- 遺留分に配慮した相続人間の調整
- 信託契約が無効になった場合の予備的対応(バックアップ遺言)
信託と遺言は競合するものではなく、補完関係にあるという前提で設計することが重要です。
信託でできること・遺言でしかできないこと
| 項目 | 家族信託で可能 | 遺言で必要 |
|---|---|---|
| 株式の議決権管理 | ◯(受託者による行使) | △(遺言では管理不可) |
| 自社株の最終帰属先の指定 | ◯(帰属権利者の指定) | ◯(遺贈としても記載可能) |
| 信託外の財産の分配 | ✕ | ◯(預金や動産など) |
| 信託の補完・予備策 | ✕ | ◯(予備的遺言) |
株主総会との関係性
信託された株式は、登記上の名義が受託者に移るため、株主名簿でも受託者が株主として扱われます。
つまり、株主総会での議決権も受託者が行使することになります。
ここで注意すべきなのは、
- 定款の内容(株主資格や議決権制限)に信託との矛盾がないか
- 会社と受託者との関係性(経営的判断を任せられるか)
- 株主総会での決議内容が信託契約と食い違わないように整合性を保つこと
たとえば、定款に「株式の譲渡制限」や「取締役選任に関する条件」などがある場合、信託設定の前に内容を確認し、必要に応じて定款変更を行うことも検討します。
連携の具体的な設計例
- 自社株式を家族信託で長男に託す(受託者)
- 受益者は当初、経営者本人。死亡後に長男が受益者に。
- 定款上、受託者でも株主資格に問題がないことを確認
- 他の財産は遺言で相続人に分配
- 信託契約に「信託終了時の株式帰属先(長男)」を明記
- 遺言に「信託が無効だった場合は株式を長男に遺贈する」と予備的記載
まとめ
- 家族信託は、事業承継の中核を担う制度だが、単独では不十分な場合もある
- 遺言で信託の補完・保証を行い、他の財産の分配を設計する
- 会社法上の制度(株主総会・定款)と整合性を取ることで、経営の安定性が担保される
家族信託を「核」とし、遺言と株主総会(定款)を補助線としてつなげることで、スキのない承継設計が実現できます。