不動産の共有によるトラブルを防ぐ
相続の場面では、不動産を複数人で「共有」する形になるケースがよくあります。
たとえば「親の家を子どもたち3人で相続した」というような場合です。
しかしこの「共有状態」は、一見平等に見えて、実はトラブルの原因になりやすい危うい形でもあります。
不動産の共有が抱える問題点
共有不動産では、以下のような点で意思決定が複雑になり、管理や処分が難航しやすくなります。
- 売却・賃貸・建て替えなどに原則「共有者全員の同意」が必要
- 一部の共有者が連絡に応じなかったり、反対したりすると手続きが止まる
- 管理費用・固定資産税の負担割合を巡って揉めることがある
- 将来さらに相続が起きると、権利者が芋づる式に増えていき、分裂状態になる
こうした事態を放置すると、空き家化や放置不動産化の原因となり、家族の負担・地域の問題にもつながるおそれがあります。
家族信託を活用した回避策
家族信託を活用することで、共有状態になる前に不動産の管理・処分の権限を一本化することが可能になります。
たとえば、親が元気なうちに次のような信託契約を結ぶとします。
- 委託者:親
- 受託者:長男(信頼できる1人に限定)
- 受益者:親(または亡くなった後の相続人)
- 信託財産:自宅や収益物件などの不動産
このようにしておけば、親が亡くなったあとでも、不動産の名義は受託者(長男)にあるため、共有者全員の同意を得る必要がなくなります。
受託者が、信託契約に基づいて売却・賃貸・管理の判断を柔軟に行うことができます。
こんな場合にも有効です
- 実家の処分を巡って、兄弟姉妹の意見が分かれそうなとき
- 相続人が高齢・認知症・海外在住などで、将来の協議が難しくなる恐れがあるとき
- 不動産の活用(賃貸・売却)をスムーズに進めたいとき
相続時の公平性も考慮して設計を
不動産の管理を一人に任せると、「他の相続人にとって不公平では?」という不安もあるかもしれません。
その場合は、次のような工夫で公平性を担保する設計が可能です。
- 受益者を相続人全員にし、収益や売却代金を按分する
- 受託者に定期的な報告義務を設ける
- 信託終了後に残った財産の配分ルールを明記しておく
まとめ
- 相続による不動産の共有は、時間が経つほどリスクが高まる
- 家族信託により、事前に権限を一本化することで柔軟な管理・処分が可能になる
- 家族間の信頼と公平性を踏まえた設計が、将来のトラブル防止につながる
共有を前提とした相続ではなく、「誰が管理してどう活用するか」までを設計する――それが家族信託の強みです。