実際の設計事例と注意点
事例:母親が委託者・受益者、将来は障害のある長女を支援
次のような家族構成を前提とした家族信託の設計事例を紹介します。
| 母親(委託者・第1受益者) | 信託を設定する人。財産の出し手。現在の生活のためにも財産を使う |
|---|---|
| 長女(第2受益者) | 障害があり、将来的に生活支援が必要。母の死亡後に受益権を取得 |
| 長男(受託者・帰属権利者) | 信頼できる家族。信託財産の管理者。信託終了後の帰属先 |
信託契約は次のように設計されました。
- 信託財産は母親名義の賃貸アパートと預金
- 母親の生存中は、家賃収入と預金の一部を母の生活費に
- 母の死亡後は、長女の生活費や医療費として支出
- 長女が亡くなった時点で信託終了、財産は長男に帰属
父親が存命で、父親が多く財産を持っていれば、委託者と第1受益者を父、第2受益者を母、第3受益者を長女して設計することを検討することとなります。
この設計の税務面でのメリット
- 設定時点では委託者=受益者のため、贈与税は発生しない
- 母の死亡により、長女が受益権を取得した際は相続税が発生(障害者控除あり)
- 長女の死亡により長男に財産が帰属した際は、原則として相続税が課税対象
税金は回避できるわけではありませんが、課税関係を整理した上で、安心して支援できる仕組みを残すことができます。
制度としての使いやすさ
特別障害者扶養信託制度と異なり、家族信託であれば信託銀行などの専門業者を介さず、家族自身が信託の運用を担えるというメリットがあります。
生活支援や突発的な医療費などにも柔軟に対応でき、実態に合った長期的支援の設計が可能です。
設計時の注意点
実際に信託契約を作成する際には、以下のような点に注意する必要があります。
- 受益者の変更(第1→第2受益者)を契約内で明確に定める
- 生活費の使途・上限・支払い方法などを具体的に規定
- 信託終了時の財産の行き先(帰属先)を明記
- 収益不動産がある場合は、管理コストや税務申告の実務も想定
- 信託が長期にわたるため、後継受託者の指定や辞任時の対応も備える
まとめ
- 委託者=母、受益者=母→長女、受託者=長男という設計は、税務と実務のバランスが取れている
- 贈与税を回避し、相続税は適切に整理される仕組み
- 柔軟で現実的な支援設計ができ、親族間の負担も分散できる
- 契約設計時には、将来の変更や運用継続も見据えたルール作りが大切
家族信託は、制度的な難しさを乗り越えて、現実の生活支援を「仕組み化」する最前の方法です。
適切な設計と、家族の協力体制があれば、障害のある子の将来にわたる安心をつくることができます。