親なきあと問題と信託の有効性
「親なきあと」の不安とは
障害のある子どもを育てる親にとって、最大の不安のひとつが「自分がいなくなった後、この子はどうやって生活していけるのか」という問題です。
これはいわゆる「親なきあと問題」と呼ばれ、特に次のような点で悩まれる方が多く見られます。
- 日常生活や金銭管理を誰がサポートしてくれるのか
- 生活費や住居の維持に必要な資金をどう確保するのか
- 兄弟姉妹に過度な負担をかけずに、支援体制を整えたい
家族信託ができること
こうした不安に対して、家族信託は「生前に設計しておける、民間型の備え」として非常に有効な手段です。
特に、以下のような点で実務的かつ心理的な安心感を提供します。
- 信託契約により、障害のある子の生活を支えるための財産の使い方を明文化
- 信頼できる家族を受託者に指定し、日常的な管理を担ってもらえる
- 生活費・住居費・介護費などの支出ルールを契約で事前に設定可能
- 遺言だけではカバーしきれない「長期の財産管理」を、生前から開始できる
成年後見制度だけでは対応が難しいことも
障害のある子のために、成年後見制度を利用する選択肢もありますが、制度上、次のような制約があります。
- 本人の判断能力が低下してからでないと開始できない
- 支出に家庭裁判所の許可が必要となる場面も多く、柔軟な支援が難しい
- 本人の利益を守るために「守りの管理」になりやすい
これに対して家族信託は、親が元気なうちから準備ができ、子の将来の生活に必要な柔軟な仕組みを設計できるという強みがあります。
兄弟姉妹の負担も軽減できる
家族信託では、信託財産の中から、受託者の負担に応じた報酬の支払いを定めることも可能です。
これにより、支援を担う兄弟姉妹が金銭的・心理的に過度な負担を感じずに役割を果たすことができ、長期的に安定した体制を維持できます。
制度ではなく「家族で作る仕組み」としての信託
家族信託は、公的制度ではありません。
その分、家族の実情や希望に応じたオーダーメイドの支援体制を作ることができるという点が最大の魅力です。
「親がいなくなっても、この子が安心して暮らせるように」——
その想いを法的な形に変えて実現する手段が、家族信託です。
まとめ
- 障害のある子をもつ親にとって、「親なきあと問題」は現実的な課題
- 家族信託なら、親が元気なうちから生活・財産の支援体制を設計できる
- 柔軟な財産の使い方、兄弟姉妹の役割分担、長期の支援を契約で明文化できる
- 公的制度だけに頼らず、家族独自の支援の形を作る方法として有効
家族信託は、制度の隙間を補い、現実に即した安心を家族にもたらす仕組みです。
「親なきあと」を見据えた準備の一つとして、ぜひ検討したい方法のひとつです。